愛染明王像
あいぜんみょうおうぞう
概要
愛染明王(あいぜんみょうおう)は、愛欲などの強い煩悩(ぼんのう)を、悟りを求める心に高める力をもつ明王です。この像のように、3つの目と6本の腕をもち、体は赤く、怒りの表情をしています。そのパワーは強大で、夫婦和合や、心身をととのえて悪行を制する調伏(ちょうぶく)などを祈る儀式、愛染法(あいぜんほう)を行うときに掲げられました。
明王の表情はきりりとしています。6つの手には、弓矢や金剛鈴(こんごうれい)と呼ばれるベルなど、明王の力を象徴する物を持っています。振り上げた左の手は軽く握っているだけですが、これは儀式のときにそれぞれの願い事に応じたものを持たせるためです。持ち物や装束などは細かく描きこまれ、全体的に緻密な仕上がりです。明王が座っているのは蓮の花。それを支えているのは、福徳の象徴、宝瓶(ほうびょう)です。この宝瓶からはほしいものが思いのまま出せる宝珠(ほうじゅ)が、あふれ出ています。どっしりとした宝瓶の形や華やかな金雲、そして龍の文様が印象的です。
宝瓶の口から宝珠があふれ、胴部に向き合う二匹の龍を描く特徴をもつ例は14世紀までの作例にいくつか残っているので、特定の時期に流行した信仰や儀礼を背景に制作されたことがうかがえます。明王の整った形や細部まで神経が行き届いた表現から、鎌倉時代・13世紀にさかのぼる優品の一つといえます。