菟足神社の風祭り
うたりじんじゃのかざまつり
概要
神社及び小坂井・平井・宿(坂地・中島を含む)の各地区の氏子によって執り行われ、煙火は祭礼奉賛団体の晃煙社(小坂井)、志組(宿)、彩光社(坂地)が行う。
神職らは3日間の祭礼の中で様々な神事を行い、浜下神事後の善福寺での海の贄である蛤による供応、山の贄である猪から雀に対象が変わったと伝えられる雀射初神事と雀射収神事、雀献供、農耕儀礼の田植神事など、祭礼の前半で海と山の狩猟、後半では狩猟と農耕を一体化した形が現れているところに特色がある。
氏子らは、小坂井と宿は山車を曳き、両者とも山車上で稚児舞・隠れ太鼓・獅子舞を行う。中島は巫女神楽の奉納、坂地は獅子舞(百足獅子)を行い、平井は本祭りで御鉾を先頭に笹踊り・笠鉾などの行列を組み神社へ参進する。胸に小さな鞨鼓をつけて踊る稚児舞は、中世から近世初頭に流行した狂言などでも登場する八ツ撥と呼ばれる芸能で、三河では唯一残されたものである。山車上で行われる隠れ太鼓・獅子舞・稚児舞はかつて吉田の祇園祭りでも行われていたと考えられており、また隠れ太鼓は近隣の牛久保八幡社や豊川進雄神社の祭礼で現在も行われている。笹踊りは大太鼓1人、小太鼓2人が踊る拍子(はやし)物風流の芸能で、県内では東三河のみに分布する。これらは、吉田・牛久保・豊川の祭礼と状況がよく似るが、菟足神社の風祭りは近世以来の当社周辺地域における祭礼芸能の姿を総体的に今によく留めているといえる。
宵祭りに奉納される建物(立物)煙火は、江戸時代後期の文献によりかつて吉田で行われていたことが知られるなど、三河地方の各所で行われた仕掛け煙火であるが、現在では新城市平井の八幡神社、額田郡幸田町荻の稲荷神社(中断中)、菟足神社の3箇所の祭礼に残されるのみである。
以上のとおり、菟足神社の風祭りは神事において海と山の狩猟、狩猟と農耕を一体化した形が現れていること、祭礼芸能に多くの要素がみられ、かつ近隣地域に伝わる祭礼芸能の姿を今によく留めていること、かつて三河地方の各所で行われた建物煙火を今に伝えることなど、祭礼全体を通して地域の風土と民俗の特質がよく現れている。