今井政之《釉彩海老飾皿》

作者は大阪市に生まれ、第二次世界大戦中に父の故郷である広島県竹原市に疎開、13歳からの少年時代を瀬戸内海に面した土地で過ごした。22歳のときに京都の初代勝尾青龍洞の門人を経て、京都青陶会の創立同人となり、主宰の楠部彌弌に師事した。70年におよぶ作陶生活の中で追い求めてきたのは、陶芸の原点である土、そして、土そのものの味を最大限に表現することであったと自身で回想している。
この作品は、土の味を出すためにレリーフに注力した時代の代表作である。力強いヘラまたは刃物によって、大皿を背景に海老が線刻によりレリーフ状に躍動的に表現されている。
やがて苔のようにくすんだ緑色の釉薬を使った苔泥彩を開発し、後に象嵌にたどりつく。象嵌はボディに文様を彫り、そこに色土を嵌めこむ技法である。土は高温で焼成すると収縮をおこす。土の収縮率が違う部分は割れたり、ひびが入ったりしてしまう。釉薬や陶土の研究の末、金属酸化物を混ぜて異なった色調の陶土を用いる象嵌を編みだした。近年では広い面積を象嵌する面象嵌を自在に操って得意とする瀬戸内の動植物などを彩り、独自の境地を見せる。

【作家略歴】
1930（昭和5）
大阪市に生まれる

1943（昭和18）
父の故郷である竹原市に移り、広島県立竹原工業学校金属工業科入学

1947（昭和22）
同校卒業後、岡山県備前市伊部の鈴木黄哉、西川清翠のもとで修業を始める

1949（昭和24）
倉敷市、岡山県工業試験場窯業分室勤務

1952（昭和27）
京都の初代勝尾青龍洞の門人となる。京都青陶会の創立同人となり、主宰の楠部彌弌に師事

1953（昭和28）
第9回日展初入選（「躍鳥扁壺」当館蔵）

1959（昭和34）
京都五条の浄雲寺境内のアトリエへ移り、陶芸家として独立
1965（昭和40）年頃から登り窯の煙が大気汚染問題を引き起こし、1968（昭和43）年に大気汚染防止法、1971（昭和46）年には京都府公害防止条例が施行され、京都市内で登り窯を焚くことができなくなる

1966（昭和41）
京都山科の清水焼団地へアトリエ建築

1971（昭和46）
岐阜県可児郡古城山に共同登り窯の兼山窯を築く

1972（昭和47）
裏千家15代鵬雲斎家元より豊山窯の窯銘を受ける

1978（昭和53）
京都の駒井兵次郎により、竹原に竹原豊山窯を築窯

2001（平成13）
芸予地震で皿を焼く穴窯が歪み、大皿焼成のため新しい穴窯を築く

2003（平成15）
日本芸術院会員

2008（平成20）
京都府文化賞特別功労賞受賞

2018（平成30）
文化勲章受章