首懸駄都種子曼荼羅厨子
くびかけだずしゅじまんだらずし
概要
奥行きの浅い平厨子で、正面に観音開き扉を開けている。天板上の左右に吊金具を付け首懸け式としている。軸部に慳貪(けんどん)式の中板をはめ、板の表面の中央に月輪(がちりん)に見立てた鏡をはめる。鏡の中心には円孔があけられ、舎利数粒と金銅製の阿字(あじ)(胎蔵界大日の種子)を納めている。鏡は蓮華座にのり、周囲に光条を放つ。鏡を取りはずすと、舎利孔のために中板に穿たれた窪みに、本厨子が至徳4年(1387)に制作された旨を記した紙片が納められている。その紙片の四周には金剛界四仏の種子を墨書した円形の小紙片4枚が貼られ、中心の舎利が金剛界大日に見なされていることがわかる。舎利孔内の阿字とあわせて、舎利を両界の大日如来に見立てたことが窺える。中板は裏面に金剛界曼荼羅を彩絵し、中板を取りはずした奥壁には胎蔵界曼荼羅が描かれている。扉絵は向かって右に不動明王と二童子、左に降三世明王(こうざんぜみょうおう)を彩絵する。奈良・額安寺(がくあんじ)伝来。同寺は鎌倉時代に舎利信仰を鼓吹した西大寺・叡尊(えいそん)が復興造営しており、密教色の濃い本厨子に叡尊の舎利信仰の影響を見ることも可能であろう。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.285, no.32.