大般若経 巻百四十八(東大寺八幡経)
だいはんにゃきょう かんだい148(とうだいじはちまんきょう)
概要
尼成阿弥陀仏が復興された東大寺伽藍の安穏を願って発願し、完成したのち東大寺の鎮守八幡宮に奉納された『大般若経』600巻、通称「東大寺八幡経」のうちの1巻。鎌倉時代前期を代表する写経である。
「東大寺八幡経」には書写奥書や奉加時の識語が記されているものが多く、それらを合せ見るに、尼成阿弥陀仏の勧進に応じて多数の僧俗が書写や経蔵造営のための費用を寄進し、東大寺僧が筆を執ったことがわかる。書写は嘉禄2年(1226)から始まり、巻第百一から二百までの100巻は僧定雄が書写したらしい。その書写の下限は、巻第二百の奥書から安貞2年(1228)4月11日と判明する。
料紙はよく打った黄楮紙で、その紙背には1紙ごとに「東大寺/八幡宮」の黒印(計17顆)が捺されている。また巻尾には、延応2年(1240)に槻本為光らが経蔵造営のために材木を奉加した時の識語がみえる。「東大寺八幡経」は、東大寺を中心とした南都の宗教事情を物語る点でも貴重である。
なお昭和13年(1938)の時点では、「東大寺八幡経」のうち312巻(当初のものは240巻)が西大寺の佐伯悟龍師のもとにあり、本巻はその内に含まれていた。神仏分離の際に八幡宮から出たものを、佐伯弘澄師(佐伯悟龍師の先師)が買取ったのだという。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, pp.304-305, no.122.