一重口水指(柴庵)〈信楽/〉
ひとえくちみずさし(しばのいおり)
概要
炻器【せつき】質焼き締め陶器の一重口寸胴形水指で、口辺を一度絞り込んで段をつける。底は板起こしで平底とし胴は粘土紐巻き上げ成形する。土肌全体に長石【ちようせき】粒が熔けて吹き出し、胴の一方には大きく窯割れが生じ、淡緑色の自然釉がかかり、一部は厚く黒褐色に焦げる。底裏のほぼ中央に表千家四世江岑宗左【こうしんそうさ】(一六一九―七二)による「柴庵(花押)」の漆銘がある。
信楽は俗に「六古窯」ともよばれる中世を代表する窯のひとつで、常滑の技術を導入し十三世紀には成立したと考えられている。長石粒を多く含む鉄分の少ない白い土を用い地肌が赤く焼け締まる、他に類のない明るく穏和な景色【けしき】の特色ある作品を作り出し、室町時代後期以降は佗び茶の盛行に伴い備前や信楽の日常雑器が水指などに見立てられるようになり、信楽は茶陶としての評価を確立していく。
本作品は、わずかに作為が加えられた古格ある素朴な器形に、変化ある自然釉と窯割れの織りなす調和した景色を見せており、強い作為を旨とする桃山茶陶の萌芽を示す先駆例として、また桃山時代の信楽陶器を代表する水指として価値高い。