サンタンヌ教会
概要
曲がりくねった道の左右に、白い壁の建物が立ち並ぶ。画面の奥にそびえるのは大きなドームを冠する教会。寒空には雲が垂れ込め、建物の煙突からは煙がたなびいている。統一感のある色調のなかで目を引くのは、わずかに用いられたレンガ色。絵画表面には絵具を勢いよく削りとったあとや、投げつけられた絵具の塊等、作者の格闘の痕跡も残る。憂愁を帯びた街路には、人影も見える。
サンタンヌ教会は、パリ13区のビュット=オ=カイユ地区に今も建つ聖堂。実際の景色と比較すれば、絵画化にあたって通りがジグザグに歪み、教会のドームが大きく膨らんでいることが分かる。
作者の佐伯祐三は、1923(大正12)年に東京美術学校を卒業した後、ヨーロッパに向けて出港。フランスで前衛芸術の洗礼を受け、躍動感あふれる筆でパリの街並みを精力的に描いた。本作を制作した1928(昭和3)年、佐伯は驚異的なスピードで次々と作品を仕上げていたが、悪天候下の戸外制作が引き金となり体調が悪化。同年8月にパリ近郊の病院で30歳の生涯を閉じた。