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絹本著色普賢十羅刹女像

けんぽんちゃくしょくふげんじゅうらせつにょぞう

概要

絹本著色普賢十羅刹女像

けんぽんちゃくしょくふげんじゅうらせつにょぞう

絵画 / 平安 / 関東 / 東京都

東京都

平安

1幅

東京都港区南青山6-5-1

重文指定年月日:19990607
国宝指定年月日:
登録年月日:

公益財団法人根津美術館

国宝・重要文化財(美術品)

 普賢は『法華経』「普賢菩薩勧発品」に、法華経を読誦する者を守護する菩薩として、王朝貴族とりわけて法華経信仰に篤かった貴族女性に信奉されたが、同経「陀羅尼品」においてこの経を広めようとする者の守護を誓う十羅刹女もまた、同性としての女性に親しまれる素地があっただろう。両者が一図に併せ描かれることは日本独自の発案だったようで、その遺品も文献例も平安時代後期以降に限られる。普賢十羅刹女像の遺品はすでに七件が重要文化財に指定されている。なかで平安時代にさかのぼる遺品は京都・廬山寺本のみであるが、本図はこの廬山寺本と相前後する古例であり、いわゆる平安仏画の香り高い作品の一つに数えられる。
 十羅刹女像には唐装と和装の別があり、唐装の図像のほうが成立は古いとみられる。廬山寺本や藤田美術館本、そして本図は唐装の遺例である。本図は普賢菩薩を中心に、前方(画面左下隅)に幡を捧げて先導する天童二人、後方(画面右隅)に十羅刹女を画面右から左に向かって移動するように表している。諸尊は雲の上にあり、画面左側には散華が表されている。また、画面上方には天蓋が描かれているが損傷のため不明確である。廬山寺本では訶梨帝母を加えているが、本図にはない。
 菩薩の肌は白色に薄く朱隈を施し、薄墨線で描き起こしている。眼窩線を表さず、冠や服飾に截金を多用することは奈良国立博物館蔵普賢菩薩像と等しく、特に冠に菊花状の截金文を並べている点は、東京国立博物館蔵普賢菩薩像や金剛峯寺蔵応徳銘涅槃図中の普賢菩薩に共通する平安後期の技法である。天蓋や牡丹状の散華を表していることも古風である。
 菩薩の乗る象の姿は承安二年(一一七二)三月の奥書をもつ善導寺蔵観普賢経見返絵における象の特徴に近似している。さらに、本図十羅刹女像は、平安時代末期作とみられる太山寺蔵法華経の陀羅尼品見返絵における十羅刹女像と図像を等しくするものが少なくなく、天童を伴うことや、天蓋・散華を表すこと、光背および白毫光の表現等、同見返絵と共通する点が多いことも注目され、本図の構図とこのような経典見返絵との関連を示唆している。いずれにしても、以上のことから本図は平安時代末期、一二世紀後半期の制作と推定され、普賢十羅刹女像の成立を考えるうえで貴重であるばかりでなく、平安仏画の佳品として注目される。

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