尊勝曼荼羅
そんしょうまんだら
概要
密教において、災害の消滅や利益の増加を祈願して修される、尊勝法の本尊として用いられる図である。大円相内に法具で区画し、大日如来を中心に八大仏頂を周囲に配し、下辺には三角赤光中の不動明王と、半月輪中の降三世明王を左右に据えるなど、構成の概略は儀軌に従って通行のとおりであるが、細部の形式に関しては、大円相の周囲の華瓶がすべて図の上方に向いて円相から立ち上がる様に描かれたり、上部の乗雲の首陀会天が飛来感を強調する並び方になっているなど、いきいきした空間を感じさせる表現に独自性も認められる。諸尊は面長で痩身のおとなしい表情を見せ、また各部も彩色は温雅な色調で、暈繝(うんげん)を多用するなど細やかな手法をつくし、平安後期に完成された仏画の様式の遺風を感じさせるが、やや繊弱に傾く面もあり、鎌倉時代中期頃の作と思われる。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.310, no.148.