如来立像(伝福岡県出土)
にょらいりゅうぞう(でんふくおかけんしゅつど)
概要
福岡県四王寺経塚から出土した二躯の如来立像で、永久4年(1116)銘の金銅宝塔形経筒に納められていたもの。両像とも11センチほどの小像であり、目鼻を除いて細かい彫刻は省略され、頭髪は素髪とし、白毫、三道をあらわさず、衣文や台座蓮弁も刻んでいない。一躯は右手を曲げ、左手を垂らし、他の一躯はその逆手とし、ともに掌を正面に向けて五指を伸ばし、両足をそろえて、三重の蓮華座に立つ。さらに衣の襟がV字形となるように合わせるなど、両像とも左右相称性が強く意識されている。また前者は右の覆肩衣(肩にかかる衣)を腕の外側に、後者は左のそれを腕の内側に、それぞれ袖状に垂下し、微妙な違いを表している。以上のような相似点から、像名は『法華経』宝塔品の釈迦・多宝如来と推定される。両像とも像身・台座ともに一鋳する。台座は地付けより中空とし、中型の鉄心を残している。像表面は全面に緑青錆が生じていたが、一部を搔落とした痕を残している。なで肩で、肘張りを広く取り、衣を静かに垂らす正面観、顎を前に出し、胸を扁平に、背を丸め、腹部を丸く肉取りする側面観、および蓮華座の形式など、総じて平安後期(11後半から12世紀)の特色が顕著である。なかでも椀形の肉髻、面幅が広く豊かな頬の肉取り、健康的で穏やかな目鼻立ち表すなど、小さな表現ではあるものの、12世紀前半頃の明るく、繊細で、温かな感覚に満ちた造形感覚に通じるものがあり、経筒の製作時期である永久4年(1116)の頃を、本像の造立年とすることも可能である。