紙本著色狭衣物語絵巻断簡
概要
これらは源氏物語と並び称される平安朝の文学「狭衣物語」を絵巻化した唯一の遺例である。もとは徳川宗家に絵巻として襲蔵されてきたが、明治元年の彰義隊の乱に際し寛永寺において焼損し、断簡として諸所へ散逸のやむなきに至った。その後、東京国立博物館では従来所蔵の二幅(④⑤)に合わせ、戦後求めた重要美術品二幅(②③)及び、昨年度国が購入した重要美術品一幅(①)を加え計五幅を数える。①②は狭衣吹笛・天稚御子降下の段、③④は飛鳥井姫君を誘拐より救い出す段、⑤は二人が行末を契る段で、狭衣物語四巻のうちの巻第一の一部であるが、内容的には本物語の山場を揃えている。描写は吹抜屋台・引目鉤鼻形式など物語絵巻の伝統に基づいたきわめて精緻な画風によっており、製作の時期も鎌倉時代後期を下らない。