水郷十二橋
概要
大正から昭和前期にかけて、日本美術院同人として活躍し、近代の日本画史に独自の地位をしめる小川芋銭の水墨画の作品である。
芋銭は、初期には、雑誌や新聞に挿絵や漫画を発表していたが、明治29年には、茨城県牛久沼畔に移り住んで、水郷地帯の神秘的な伝承や自然現象から霊感を得た幻想的な雰囲気の作品や、当地の自然に対する共感溢れる水墨画を数多く描いた。
この「水郷十二橋」も、芋銭にとって親しい存在であった潮来の水郷風景を主題とする水墨画である。画面中央の水面には、一頭の牛と農夫・船頭を乗せた小舟がゆったりと進み、その周囲を、豊かな樹叢や水田の広がる自然がやさしく包みこんでいる。
図上には、水郷の名勝であった十二橋に寄せる、画家自身の題讃が気負いのない柔らかな筆致で記されるが、絵にも、讃文にも、水郷の美しい自然に対する芋銭の細やかな心情を見て取ることができる。 (毛利伊知郎)