Y市の橋
わいしのはし
概要
竣介の親友だった舟越保武があるエピソードを語った。「あの橋の上から、竣介は手をふって私のところへ戻って来た。『暗くなった。かえろう』といってスケッチブックを閉じた。夕暮れの中に竣介は白っぽい服を着て立っていた。仕事を終えて、熱っぽい顔をしていた。」
しかし、彼は竣介が亡くなり随分たってから再び「あの橋」を訪れた時、錯覚だったことにはたと気づく。「私は一度もこの辺に来たことがなかったのだ。竣介と一緒に横浜に来たこともなかったと気がついた。……竣介の絵《Y市の橋》を何べんも見ている中に、いつしか私があの絵の中に入り込んでしまって、想像が現実のようになって、私の中に焼きついたのであろうか。……竣介は36歳で死んだ。その生涯は短くとも、絵描き一筋の充実したものであった。竣介の描いた風景は、陽が落ちるときのあの微妙な青の中に沈み込む都会の哀愁がある。たしかな構築の上にただよう詩情がある。」(舟越保武『巨岩と花びら』)