定礎神像
ていそしんぞう
概要
神殿を建設する前に、建物の基礎の部分に打ち込まれた青銅製の杭です。先端の尖った部分は失われており、本来はもっと長かったのでしょう。杭の頭の部分は、胸の前で両手を組んだ人物の形をしています。頭には角があることから、神の姿を表したと考えられます。こうした合掌の姿は、メソポタミアに最古の文明を築いたシュメール人たちが表す人物像によく見られるポーズであり、祈りを捧げる姿と考えられています。
古代メソポタミアでは、神々のための神殿を建設し、改修、管理することが、王や領主の重要な役割のひとつでした。杭の形をした神像は、このような建設工事の際に、建物が末永く安泰であることを願って、建物の基礎部分や壁に打ち込まれました。こうした儀礼は、現在の私たちにもなじみのある地鎮祭(じちんさい)とも共通するところがあります。杭はしばしば、建設事業の内容と祈りの言葉を石板に記した碑文(ひぶん)と一緒に埋納されました。
これとたいへんよく似た像が、南メソポタミアで繁栄した都市国家ラガシュの発掘調査からも出土しています。紀元前2400年頃にラガシュを治めたエナンナトゥム1世が、女神イナンナのための神殿を建設した際に、建物の基礎に打ち込まれたものです。一緒に出土した碑文によれば、神像は、王の個人的な守護神シュルトゥルを表したもので、王の願いを叶えるため、女神イナンナに祈りを捧げていると考えられています。ごらんいただいているこの像も、同じ王によって埋納されたものと推測されます。