坐鋪八景・時計の晩鐘
ざしきはっけい とけい ばんしょう
概要
行水(ぎょうずい)の後でしょうか、縁側で夕涼みをする女性はゆるやかに着物をまとっています。後ろに座る侍女が振り返っているのは、時計が鳴ったからでしょう。屋外から座敷を見下ろす構図は、風の入る涼しげな空間でのくつろいだ雰囲気を想像させます。「坐鋪八景」は、中国の伝統的な画題である瀟湘八景(しょうしょうはっけい)のパロディとして女性の日常を描いた8枚揃いのシリーズです。この「時計の晩鐘」は、瀟湘八景の中の「烟寺晩鐘(えんじばんしょう)」という、遠く夕霧に煙る寺の鐘の音を聴く画題にあるお寺の鐘に、時計の鐘を重ねて描いています。当時としては高価な時計や、格調を感じさせる竹の水墨画の衝立が、この女性の身分をそれとなく表しているようです。またこれは、鈴木春信を中心に始められた、錦絵と呼ばれる多色摺り木版画の初期の作品です。錦絵は、絵暦交換会という趣味人の集まりをきっかけに誕生しました。その中心人物であった旗本の大久保巨川(おおくぼきょせん)が春信に依頼した絵でもあります。