盃
さかずき
概要
高辻屋で使用されていた盃である。盃とは、酒を注ぎ飲むための器である(注1)。
資料は全部で3口あり、大きさは小・中・大がある。小は見込みに高辻屋の商標である「ヤママス」が金字で書かれている。中は藍色(染付)で波と北前船が後ろ向きで描かれており、金色で船の帆に「ヤママス」と周りの雲が描かれている。大も藍色(染付)で波と北前船が正面を向いて描かれており、金色で船の帆に「ヤママス」と周りの雲が描かれている。3口とも口縁部に金が塗られている。
高岡小馬出町(のち源平町)の高辻屋は、近世は綿商人として、近代以降は米仲買人などとして繁盛した家である。文政7年(1824)12月に綿の専売権が高岡に認められた際には、綿場仕法の改正のために、高辻屋与右衛門を含む綿業者7名が産地の備後福山(現在の広島県福山市)へ派遣され、実地の視察を行い、取引方法の改善を図った(注2)。与右衛門の養子である八右衛門は、北前船「扇寿丸」を所有していた(注3)ので、本資料に描かれている北前船の可能性がある。また八右衛門は嘉永6年(1853)3月、戸出野神社の大鳥居を伏木の能登屋三右衛門ら北前船主・船頭らと共に奉納している(注4)。
寄贈者によると本資料は無事に船が帰ってきた祝いの宴席で使用したものであるという。
付属品は木製の木箱である。小だけが異なるデザインなので、3ツ組ではない可能性がある。
資料状態は、3口とも絵や縁の色剥がれが目立つ。
〔注〕
1.『絵引民具の事典』河出書房出版、2008年、p56~57
2.『高岡市史 中巻』青林書院新社、1963年、p161~163
3.『高岡の町々と屋号 第3号』高岡市立中央図書館、1995年、p15
4.『戸出町史』高岡市戸出町史編纂委員会、1972年、p705~706