高野の玉川
こうやのたまがわ
概要
表題の「六玉川」とは、古来より和歌と縁の深い、「玉川」と名のつく6つの名所のうち、和歌山の「高野の玉川」を描く錦絵です。上部の色紙に高野山金剛峯寺の開祖である弘法大師(空海)の和歌を添えています。画中の少女が反射式のぞき眼鏡でのぞき見ているのも、西洋の銅版画ではなく、本図の主題にあわせて高野山の玉川の景色となっています。
その横で、少女に声をかけている人物は、一見女性のように見えますが、実は「色子」と呼ばれた男娼。ユニセックスな描写に秀でた鈴木春信らしい可憐な表現です。春信は、1765年以降に成立した多色摺木版「錦絵」の草創期の絵師です。本図のような初期の錦絵は非常に高価なもので、これを買えるような富裕層にアピールするような新奇性を、場違いともいうべき西洋製反射式のぞき眼鏡をあえて描くことで醸し出しています。春信は1770年に没したので、本図の製作年代は1760年代の後半ということになりますが、同時にそれは、この時期に江戸に反射式のぞき眼鏡が普及し始めていたことを示しています。
【江戸の絵画】