風流無くてななくせ[遠眼鏡]
ふうりゅうなくてななくせ とおめがね
概要
風流無くてななくせ[遠眼鏡]
ふうりゅうなくてななくせ とおめがね
葛飾北斎 蔦屋重三郎版 (1760-1849)
かつしかほくさい
江戸時代、享和年間/1801年~1804年
木版色摺
36.8x24.8
大判錦絵1枚
来歴:池長孟→1951市立神戸美術館→1965市立南蛮美術館→1982神戸市立博物館
参考文献:
18世紀後半から19世紀初期は、のぞき眼鏡などの光学機器を通じて絵画を眺める娯楽が、世界中で流行しました。17世紀はじめにヨーロッパで発明された望遠鏡(遠眼鏡)については、その直後にイギリスの使節が徳川家康にし贈呈たという記録があります。18世紀になると天体観測用として民間でも製作・普及するようになり、円山応挙のように絵画制作の道具として活用されたこともありました。いっぽうで、この新奇なアイテムに夢中になっている人びとを皮肉っぽく描く絵師も出てきます。
本図は、葛飾北斎(1760~1849)としてはかなり珍しい、大首絵の美人図です。「可候」と名乗っていた時期の作で、日傘を手にしたお歯黒の武家の妻と、島田髷の若い娘が大きく描かれています。二人はおそらく母娘でしょう。娘は和製と思われる朱塗りの遠眼鏡をのぞいています。「ななくせ」というタイトルから、女性たちが無意識のうちに出してしまう「癖」を主題にした7枚揃とも考えられますが、他に「ほおずき」と通称される図が知られているだけです。「ほおずき」には手鏡が描かれており、新奇なガラス製品をあしらうシリーズものだったのかもしれません。本図は、しかめっ面で遠眼鏡に夢中になっている娘の「癖」を、母親がたしなめている場面とも解釈されます。なぜなら、川柳もたしなんだ北斎は次のような句を詠んだからです。「皮切りといふ面で見る遠眼鏡」(初めてお灸をすえられた時のように顔を歪ませて覗く望遠鏡)
【江戸の絵画】