髑髏のある静物
概要
「髑髏のある静物」は中村の自画像の一種であるといえば驚くかもしれないが、かれの代表作に「髑髏をもてる自画像」があり、また数多い自画像の中に、くぼんだ眼窩が表面を皮一枚で覆われるにすぎない髑髏を思わせる作品があったりすると、その後で再びこの絵を素直に静物画と受けとれるかどうか。
ありあまる才能を持ちながら、宿痾の結核のため、あこがれのヨーロッパへゆくこともできず、心身ともに血を吐く貧しい生活を余儀なくされ、不感を待たずに白玉楼中の人となった画家の意識は、本来外へ向かう過剰のエネルギーさえ内に向かって、ここに「死」とその死を死ぬ「自己」をみつけるほかはない。
そういうわけで、髑髏は中村にもっとも親しいイメージ、常に対話を交わす相手だった。かれが尊敬していたセザンヌの影響もあるいはあるかもしれないし、キリスト教の中世以来髑髏は普遍のシンボルであった。メメント・モリ(死を忘れるな)。
しかし中村が生きたのはほかでもない近代の日本である。みずからを聖者に擬するしかなかった「髑髏をもてる自画像」の死を生きる彼は、少し悲しい顔をしている。 (東俊郎)