万葉集(栂尾切)
まんようしゅう とがのおぎれ
概要
この作品は現存する最古の和歌集である万葉集の写本、桂宮本(かつらのみやぼん)万葉集の断簡で、掛軸として仕立てられました。断簡は切(きれ)とも呼ばれ、持ち主の名前や伝来などからその名前が付けられます。この切の名前である栂尾(とがのお)といえば、京都の高山寺付近の地名が連想されますが、由来はわかっていません。
草木と流水が表された浅葱色(あさぎいろ)の色紙に、本来の紙とは別の紙が接ぎ足されています。これは見栄えをよくするため、あるいは掛軸へ仕立てやすくするためにつけられたものと考えられます。
歌は、奈良時代の貴族で歌人でもあった大伴家持(おおとものやかもち)のいとこで、のちに妻となる大伴坂上大嬢(おおとものさかのうえのおおいらつめ)が家持に贈った一首。相聞(そうもん)と呼ばれる互いに相手の様子を尋ねる歌で、内容から恋の歌であることが分かります。
書いた人物は平安時代中期に活躍した、源兼行(みなもとのかねゆき)です。この作品は兼行60歳前後のものと考えられます。
書き方に注目してみましょう。漢字と仮名は同じ内容を記していますが、双方から受ける印象は異なります。漢字は縦線と横線が一定の太さで書かれているために、整然としています。仮名は文字のつらなりのバランスが良く、優美さがうかがえます。4行という短い中でも、漢字と仮名で書き方を使い分ける兼行の実力を見ることができる作品です。