車庫近く
しゃこちかく
概要
松本竣介(1912-1948)の都市風景には、駅や橋、教会など、ヨーロッパの街角を描いたような堅牢な洋風建築が多く登場します。この作品では、車両基地近くのためか、明瞭な建物らしき姿はなく、煉瓦で囲まれたなだらかな草地が広がるばかり。画面に変化をもたらすのは、かたちも不揃いな電柱や街燈。シルエットと化した柱の大きさの違いが、いくらかの遠近感を伝える一方、薄塗りの明るい空を背景に浮かぶ、途切れそうな繊細な電線は、奥行きの定かでない絵画空間の中で、行き場を失ったような心細さを感じさせます。
岩手県に育った作者は、昭和初期に上京。線は一切のものを表すと同時に、自らの気質であると考え、線の多様な表現を追求し続けました。自己表現と不可分である制作手段の探求は、豊かな表現力はもちろん、絶え間ない真摯な研究による、純粋で清澄な気配を画面に添えているようです。