志野
しの
概要
志野の制作には、胎土に岐阜県東濃地方特産の百草土(もぐさつち)、釉薬には風化した長石を主体としたものを用いる。この技法により制作された陶器は、柔らかで落ち着いた光沢を持つ白色の肌地と柚子肌のような独特の肌合い、随所にほんのりと現れる緋色(ひいろ)、水墨画にも似た絵付け等に特徴が見られる。その意匠は装飾性に富み、鬼板(おにいた)と呼ばれる酸化鉄の泥漿(でいしよう)による下絵付けには、動植物などの具象的な文様に、桧垣、亀甲、篭目などのパターン化した文様を組み合わせた多種多様な図案が描かれる。また、器形は四方形や扇形など正円を離れた形も採用し、茶碗ではへら削りや面取りを多用した動的な器形を呈するものが見られる。
桃山時代には優れた茶陶が数多く生み出されたが、江戸時代になると衰退した。その制作技法は長らく途絶えていたが、昭和5年(1930)に故荒川豊蔵氏の古窯跡発見を機に復興が始まった。現在では、桃山時代の伝統的技法を受け継ぎつつも独自の作風を工夫して、より芸術性の高い、機能美にあふれた作品を追求しようとする試みがなされている。