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伊勢物語〈下/〉

いせものがたり

概要

伊勢物語〈下/〉

いせものがたり

その他 / 鎌倉 / 近畿

鎌倉/1202

1巻

重文指定年月日:19860606
国宝指定年月日:
登録年月日:

公益財団法人冷泉家時雨亭文庫

国宝・重要文化財(美術品)

 冷泉家に伝来した『伊勢物語』の古写本で、藤原定家が建仁二年(一二〇二)に書写したいわゆる建仁二年本の現存最古写本である。
 体裁は巻子装で、後補の濃萠黄地蓮宝相華文金襴表紙、牙切軸を装している。料紙は良質の鳥ノ子紙三八紙を継いで用いるが、その一紙幅は約四九センチのものと約三五センチのものとの二種がある。本文は一行二〇字前後、和歌は二字下げの二行書に端正に書写しており、『伊勢物語』の後半(定家本系の第六十二段より第百二十五段)を存している。内題はないが、巻首に余白を置いた体裁等よりみて、上下二巻に分けて書写されたものと推定される。本文中には擦消訂正、墨・朱の校異があり、行間、欄外、紙背には和歌の集付、人物・和歌集に関する勘物がある。墨書の校異・集付・勘物は本文と同筆で、多くは親本のものを忠実に書写したものと認められるが、紙背に記された勘物は他の定家系諸本にみえないものが多く、定家以後の人物による追記と推定され、また朱の校異は後筆にかかるものである。巻末には本文の後に、
 「此物語事
 高二位成忠卿本〈始起春日野若紫哥/終迄テ昨日今日云々〉 朱雀院塗
 籠本是也
 業平朝臣自筆本〈始起名のみ立歌/終迄テ昨日今日云々〉 自本是也
 小式部内侍本〈始起君やこし歌/終迄テ程雲井歌〉 小本是也」
とあり、ついで、
 「當初所書本、爲人被借失畢、仍愚意所存、爲備随分證本書之
 于時建仁二年季夏中旬霖雨之
 間、以假日終此功」
と定家建仁二年書写の旨の本奥書があり、さらに「抑伊勢物語根源」云々の奥書がある。書写奥書はないが、書風等よりみて鎌倉時代中期の書写になるものと認められる。
 『伊勢物語』の諸本は、藤原定家の書写・校訂になる定家本が大半を占めるが、定家は数回にわたって『伊勢物語』を書写しており、建仁二年本はその中で定家が最も早い時期に書写したもので『伊勢物語』研究上に重視されている。この冷泉家本は下巻のみではあるが、定家の書写本の本文等を最もよく伝えた写本と認められ、その価値は高い。また『伊勢物語』の現存諸本がいずれも冊子本である中で、本巻は上下二巻に分けて書写された巻子本であり、形態的にも注目される。

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