素性集(唐紙)
そせいしゅう
概要
『素性集』を美麗な唐紙に書写した古写本である。装幀は薄藍地金銀砂子折枝雲文の後補表紙に右端二か所を組紐で綴じた大和綴で、本文料紙は白地、薄赤地、藍地に、それぞれ片面に模様を白雲母、黄雲母で刷り出した唐紙を用いている。体裁は見開きの二丁および他に一丁の計三丁を同一料紙で用いており、糊付けの痕跡も見られないので、当初より大和綴状に綴じたものと考えられる。料紙の唐紙は、(一)白地白雲母亀甲繋文、(二)白地黄雲母花唐草文、(三)薄赤地白雲母唐草文、(四)藍地白雲母花唐草文、(五)白地白雲母鳳凰唐草文(以上各三丁)、(六)藍地黄雲母瓜唐草文(二丁)の六種類を用いている。内題はなく、本文は「仁和の中将御息所うたあはせに」の「をしとおもふこゝろもいとによられなむちるはなことにぬきてとゝめん」以下六〇首を半葉六~八行、一首二~三行、詞書約二字下げに、文字の縦線をことさら太くするなど強弱のアクセントをつけた流麗な筆致に書写している。各歌の頭に「古」「撰」などの集付があり、この集付の多くは藤原定家の手になるものと推測され、本帖が定家の手沢本であったことをうかがわせている。なお帖末には後筆で「是自筆歟」とするが、のちにこれを擦消している。奥書等はないが、料紙および書風より平安時代末期になるものと考えられる。
本帖の内容は、前田育徳会本の親本にあたるもので、所収歌六〇首中、第二一首「かきりなき」と第五二首「そこひなき」は同一歌の重出と考えられるが、第五八首「よろつよと」以下、末の三首は他の系統の諸本にみえない歌を収め、歌の配列、詞書等も他と大きく異なっている。本帖は『素性集』伝本中で独自の地位を占める古写本として注目されるもので、美麗な料紙とその装幀からも貴重な遺品である。
所蔵館のウェブサイトで見る
国指定文化財等データベース(文化庁)