残集(西行歌集)
ざんしゅう
概要
『残集』は、西行(一一一八-一一九〇)晩年の歌を没後に知友がまとめたもので、『聞書残集』とも呼ばれ、西行の歌集である『聞書集』の末に付加されるべき歌集である。
この冷泉家本は綴葉装の枡型本で、水色の縦繁菱模様のある唐紙の原表紙に「残集」と藤原定家筆の外題がある。首の遊紙には「きゝかきしふのをくにこれかきくしてまいらせよとて」云々の仮名消息の写があり、それによって本書が『聞書集』の奥に書き加えられるべきものであること、および『新古今集』の撰者の一人藤原家隆のもとに届けられるものであることが判明する。首尾題はなく、料紙は楮紙を用いるが、界線を施さず、二十四首の歌と十四句の連歌を収めている。本文は半葉八行で、歌は一首二行書き、詞書は二字下げにて書かれ、まま擦消訂正や加筆訂正がみられる。
『残集』は、これまで江戸時代初期の書写になる甲・乙二本(ともに宮内庁書陵部蔵)が知られているが、この冷泉家本は、いわゆる乙本とほとんど字句の異同がないので、乙本の親本にあたると考えられる。奥書はないが、定家手沢本の『聞書集』(重要文化財、天理大学蔵)と同筆で、鎌倉時代前期の書写になるものである。
西行の歌集の鎌倉時代に遡る古写本は、これまで『聞書集』(前掲)、『山家心中集』(重要文化財、宮本長興氏蔵)の二本が知られているが、この冷泉家本は近時新出本で、今まで知られていた江戸時代前期の写本の原本として西行歌集の研究上価値が高い。
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