蓮唐草蒔絵経箱
はすからくさまきえきょうばこ
概要
型で成形した獣皮に漆を塗りかためた漆皮(しっぴ)製の経箱。長方形、被蓋造(かぶせぶたづく)りで、蓋甲に漆皮箱としては珍しく塵居(ちりい)(甲面と側面の接点にあるわずかな平坦部)を作る。蓋・身とも外面はまばらに金粉を蒔いたのち(平塵地(へいじんじ)という)、大小二種の金粉と銀を多く含む青金粉を蒔き分け蓮唐草を花枝風に表し、間地に蝶を遊飛させている。文様の配置は、蓋甲では中央と四隅、蓋の各側面の中央に蓮唐草文を置くように規則性があり、対称的に整理された文様構成が好まれた奈良時代から平安前期にかけての工芸品の伝統を受けついでいる。それに対し、蓋裏は淡い平塵地に蝶を不規則に散らしており、散らし文が好まれた平安後期の工芸品らしさを見ることができる。身の長側面には精緻な金工技法による金銅製蓮華様の対葉花文をかたどった透彫りの紐金具をつけている。平安時代、貴族たちによって平家納経に代表される豪華で優美な荘厳を具えた経典が写されたが、本品はこのような装飾経を納める経箱として制作されたものであろう。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.285, no.34.