蓬莱山蒔絵硯箱
ほうらいさんまきえすずりばこ
概要
高蒔絵【たかまきえ】に金銀の金貝【かながい】、銀の切金【きりかね】を交えて表された蓋表の図様は、松竹橘が生えた峨々たる山岳が遊弋する大亀の背に乗っているところから、中国古来の蓬莱思想に直接基づいていると知られる。この種の蓬莱文は、わが国で中世以降に慶賀・吉祥文として流行する松竹梅鶴亀文といった和様化された蓬莱文に比べて古様である。
この古様さは、室町時代中期以降に多い、芦手歌絵【あしでうたえ】意匠のように技巧を凝らさない素直な意匠表現や構成、淡く細かな平目地【ひらめぢ】、口縁の錫覆輪【すずふくりん】の手法、裾広がりの硯などにも看取される。
一連のいわゆる東山時代の硯箱群よりやや遡る古雅な趣を湛えた蒔絵硯箱の優品である。
小堀遠州、松平不昧所持と伝えられる。