琵琶湖畔で繰り広げられる山王祭と、京都の街中における祇園会とを組み合わせて一双とする中屏風で、明快な色彩と細緻な描写に特徴がある優品である。現存する祭礼図屏風としては最古例で、慶長期ごろの作と考えられる「日吉山王祭礼図」(重文、檀王法林寺蔵)や「祇園祭礼図」(重文、出光美術館蔵)をさかのぼる様式を示す。
描かれる人物は祭礼における人々の熱気と喧騒を表情豊かに伝えている。人物を描く線は軽快で、祭礼を見物する庶民の男性たちは、頬骨が高く、口髭や顎髭を蓄えた姿で描かれる。このような人物表現は土佐光茂(生没年不詳)の様式を示すが、細部を観察すると複数の手が確認できることから、光茂が主宰した工房で制作されたと判断される。
左隻では、祇園会の前祭と後祭の山鉾計22基と、後祭で三条通を東進する3基の神輿還幸を同一画面内に描いている。また右隻では、期間の長い山王祭のなかで最初の神事である神輿あげを行う牛尾社・三宮社を画面右上に描き込んでおり、船渡御だけに絵師の関心があるわけではないことがうかがわれる。左右隻ともに祭礼の一場面を切り取るのではないところにも本作の特徴が指摘できる。