世界遺産と無形文化遺産
白川村荻町地区
主情報
- 記載物件名
- 白川村荻町地区
解説
詳細解説
荻町集落は戸数152戸、人口634人(1994年8月現在)である。明治9年(1876)の記録によると、当時、荻町は99戸(現在は別の集落として独立している枝村戸ヶ野集落の戸数を含む)で、白川村の23の集落の中では最大の集落であった。 集落の中心部分は庄川の東側右岸に広がる南北長さ約1500m、東西最大幅約350mの三日月形をした河岸段丘にある。また、集落北端から東に入る牛首川の細い谷筋沿いにも集落が延びているほか、庄川対岸の河岸段丘にも1戸だけの地区が飛地となってある。段丘の標高は500m前後で、ほぼ平坦な地形であるが、東の山際は若干高くなっている。保存地区はこの荻町集落の屋敷地と耕作地の大部分に東山麓の山林の一部を含んだ範囲である。 集落の骨格は、集落の中心を南北に走る幅員6mの自動車道と、耕作地と屋敷地の間を網の目のように繋がりながら延びている幅員2-4mほどの村道で構成されている。村道は江戸時代からの形をほぼそのまま伝えているが、自動車道は1890年に設けられたものである。古い村道が地形に応じて曲線を描きながら道幅を自在に変えているのに対し、直線的で一定の道幅の自動車道は異質な存在である。したがって、近世の村落景観を損ねていることになるが、道路の開通以来、すでに1世紀以上を経ていて、この集落の歴史となっていることも事実である。 多くの屋敷地は耕作地の間に点在している。この形態が荻町集落の基本であるが、現在では自動車道沿いには連続した屋敷地も形成されている。それぞれの屋敷地は規模が小さく不整形で、道との関係もさまざまである。山際の傾斜地では石垣を築いて敷地を造成している。多くの場合、敷地境は道路と若干の植栽、あるいは水路や田畑で区画されるだけで、特に周囲に塀や生け垣を設けることもなく開放的である。また、主屋は接続道より離れた奥に配置されているが、敷地が狭いために、農作業に使われる前庭はそれほど広くはない。多くの家では板倉や、ハサ小屋等の附属屋を所有しているが、便所を主屋の脇に建てるほかは、主屋からはやや離れた耕作地や山林の中に建てている場合が多く見られる。これは家屋が火災に遭ったときにも、倉やハサ小屋が焼失しないための配慮である。 屋敷地の周辺には水田や畑が点在するが、これらは小規模で不整形のものが多い。ややまとまった耕作地は集落の南と北に見られる。現在、畑では野菜や豆類等が栽培されているが、以前は主に桑が栽培されていた。水田に水を供給する水路は、村道と同様に屋敷地と耕作地の間を走り、曲りくねりながら網の目のように広がっている。 集落の守り神である八幡神社は、集落の中央より南に寄った場所に祀られている。ここは山が川に迫り、平坦部が括れている所で、神社の境内は山麓の傾斜地にあり、杉などの境内林に囲まれている。また、住民の信仰の中心である浄土真宗の寺は、集落内に2カ寺ある。1つは八幡神社の北東の山麓にある明善寺で、他の1つは明善寺の北西の、自動車道を挟んだ反対側にある本覚寺である。 荻町集落の伝統的建造物群(保存すべき建造物として登録されているもの)の主体をなす建築物は「合掌造り」の家屋である。これらの合掌造り家屋に加えて、合掌造りを木造2階建に改造した家屋、非合掌造りの木造家屋、これらの附属建物である便所、板倉、ハサ小屋、宗教建築などの建築物117棟と、石造工作物の7件によって伝統的建造物群が構成されている。 保存地区内に現存する合掌造り家屋は59棟である。また、明善寺庫裏は一般の家屋ではないが、造りは合掌造り家屋と同じであり、これを加えると60棟となる。これらの合掌造り家屋の多くは江戸時代末期から明治時代(19世紀前期~20世紀初期)に建てられたものである。最も古いとみられるものは18世紀中期から後期と推察されるもので、新しいものでは20世紀前期のものもあり、この時代まで合掌造り家屋がつくられていたことがわかる。 なお、荻町の合掌造り家屋は、庄川に沿って棟を平行に揃えている。同じ形態の建築が規則的に群となって並ぶ様子は、極めて特色的で印象的な集落景観を形成している。 平面は広間型三間取りが多いが、四間取りも混在している。また、規模の大きい家屋では、これらにさらに2室を加えたものも見られる。出入口は平入りがほとんどで、例外的に妻入りのものも見られる。 合掌造りを改造した家屋は、ウスバリより上の小屋を取り除き、新たに木造の2階を増築し、束立構造、切妻造り、鉄板葺きとした1棟で、1958年に改造されたものである。非合掌造りの木造家屋は、柱梁、束立構造による2階建、鉄板葺きの建物7棟で、規模と外観は改造家屋に類似している。明治初期から昭和初期までの間(19世紀後期~20世紀前期)に建てられたものである。改造家屋と非合掌造りの木造家屋の存在は、荻町集落の家屋の形式の変化を具体的に示すものであり、また、現在では集落の景観に調和しているので、伝統的建造物群を構成するものとしての価値が認められている。 附属建物は便所10棟、板倉25棟、ハサ小屋7棟、唐臼小屋3棟である。いずれも木造の平屋建あるいは2階建で、叉首構造の切妻造り、茅葺きであり、主屋の合掌造りの家屋と形態が類似している。これらのほかに、明善寺の茶室が1棟ある。 宗教建築は4棟(明善寺庫裏を含む)である。明善寺本堂は入母屋造り、茅葺きで、鐘楼門は木造2階建、入母屋造り、茅葺きで、2階に銅鐘を吊り、1階を通路としている。 工作物は八幡神社の石鳥居や石灯篭、本覚寺の石垣、明善寺の石段などの石造物7件である。 環境物件は8件である。八幡神社の境内社叢のほか、明善寺や本覚寺、和田家、長瀬家にある一位、桜、松の樹木や生け垣などである。このほか、集落内に巡らされている水路のうち、約550mが環境物件として保存の対象となっている。