埴輪 盾持人
はにわ たてもちびと
概要
盾持人物形埴輪は人物埴輪の中では最も古い時期に登場するもののひとつである。ほかの人物埴輪と異なり、手足は基本的に表現されず、円筒埴輪の上に頭部を乗せ、胴部に板状の盾表現をつけるというシンプルな形状をもつ。古墳上における配置にも特徴があり、古墳の周囲をぐるりとめぐる円筒埴輪列の中に配され、外側を向いて並べられる例が多い。古墳内の特定の区画などに集中して並べられ、なんらかの儀礼の場などを表現したと考えられるほかの形象埴輪とは異なっていて、盾持人物形埴輪の性格をあらわすものと考えられている。本例は盾持人物形埴輪の典型例であり、遺存状況も極めて良い。
本作品には「東京都下 玉川出土」の伝が付属する。玉川村は戦前に東京府荏原郡に所在した地名で、現在の東京都世田谷区南部にあたる。現在の世田谷区野毛から大田区田園調布にかけての東京都南辺、神奈川県との県境を画する多摩川の北岸(東京都側)には、河岸段丘が形成されており、その段丘上には古墳時代前期から後期にかけての一大古墳群である荏原台古墳群が存在する。武蔵地域南部の豪族の奥津城と目され、かつて100m級の前方後円墳を含む50基以上の古墳が所在した(現在はその一部が多摩川台公園の中に残されている)。戦前より郷土史家や考古学者らの手によりたびたび発掘調査が行われており、埴輪の出土も伝えられる。本作品もこの古墳群のうちのいずれかの後期古墳より出土したものであろう。