四万山水図軸(万頃晴波図)
しまさんすいずじく ばんけいせいはず
概要
この作品は四幅の大画面作品から構成され、それぞれの画面の上部に、数字の「万」から始まる題が書かれているため、「四万山水(しまんさんすい)と総称されます。この「万」は、数が非常に多いという意味です。水辺の竹林に霧雨(きりさめ)が降る情景を描くのが「万竿烟雨(ばんかんえんう)」、高い山に茂る松林(まつばやし)を風が揺らす情景を描くのが「万壑松風(ばんがくしょうふう)」、さざ波がどこまでも続く湖に小舟が浮かぶ情景を描くのが「万頃晴波(ばんけいせいは)」、険(けわ)しい山の峰に雪が積もっていく情景を描くのが「万山飛雪(ばんざんひせつ)」です。四つの雄大な自然景の間には、これを楽しむ人物たちの姿が小さく描きこまれています。それぞれ春夏秋冬の四季を表わすと考えられていますが、それだけでなく、一幅一幅が中国の有名な景勝地を象徴している、あるいはそれぞれ4人の名画家の画風を参照し描かれている、という見方もあります。さまざまな解釈が可能な、複雑で味わい深い四幅構成が魅力の作品です。
文伯仁(ぶんぱくじん)は、16世紀から17世紀にかけて、中国江南地域で絶大な名声を誇った文化人一族、文氏のひとりです。当時から有名な文人画家で、細かに描きこまれた大画面作品を制作することに優れていると評価されました。「万壑松風」の針のような松葉、「万頃晴波」の網目のような波の表現は、まさにその評価にふさわしいものといえます。