氅衣(チャンイー) 紅繻子地花卉文様
しょうい(ちゃんいー) べにしゅすじかきもんよう
概要
19世紀、中国・清時代に製作された、氅衣(チャン イー)と呼ばれる、后妃(こうひ)の普段着です。両脇には雲文(うんもん)をかたどった装飾とスリットが配されています。このような形の衣服は、現在の旗袍(チーパオ)、いわゆるチャイナドレスの原型になったと考えられています。
この作品には、鮮やかな紅色の絹の繻子地(しゅすじ)に、色とりどりの花や鳥が、さまざまな刺繡技法で表されています。例えば、牡丹や蓮の花びらのグラデーションには、搶針(チィァン ヂェン)という刺繡技法が使われています。これは、色糸を平行に繡(ぬ)いつめ、段ごとに濃淡を表す技法です。また、鷺(さぎ)、ヒヨドリ、鶴の羽毛は、繡糸(ぬいいと)の刺し目をつなげる套針(タオ ヂェン)、日本でいう刺し繡(ぬい)で細やかに表現されています。ほかにも、松の葉の中心には打籽(ダー ズー)、日本でいう相良繡(さがらぬい)を用い、玉結びをつくることで、松笠に立体感を持たせています。このように、多様な刺繡技法を駆使し、モチーフの質感を巧みに表現しています。
次に、文様に注目してみましょう。牡丹と蓮の間には、木蓮、水仙、蘭、菊、梅が花を咲かせており、蝶がその周囲を舞っています。また、松、竹、梅、桃は円形をつくり、その中には、鷺、ヒヨドリ、雉、鶴がそれぞれつがいで表され、夫婦円満を願う思いがこめられています。さらに、折り返した袖口には、尾が美しく広がった孔雀が刺繡されています。これらの文様には、おめでたい吉祥の意味が込められており、その中でも牡丹は、中国において、富と高い身分といった、「富貴」(ふうき)の願いを込めた代表的な花です。また、ヒヨドリや蝶、鶴、松、竹、梅、菊、桃には長寿の望みが、蓮と鷺の組み合わせには、立身出世の願いがかけられています。ほかにも、孔雀は吉祥を招く瑞鳥(ずいちょう)として重んじられてきました。卓越した刺繡技術とともに、さまざまなモチーフを探しながら、作品をご覧ください。
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東京国立博物館