冨嶽三十六景・武州玉川
ふがくさんじゅうろっけい ぶしゅうたまがわ
概要
これは、江戸時代の後半に、浮世絵師の葛飾北斎が描いた多色摺りの木版画です。富士山をテーマとした46枚シリーズの一枚です。タイトルは「冨嶽三十六景」なのに46枚あるのは、人気が高く当初の予定から10枚増えたためです。
ここは玉川、現在の多摩川のほとりです。たっぷりと水をたたえた流れを、一艘の舟が渡っています。手前の岸には、馬の背に荷物をのせて引く人物が一人。あとはただ広々とした水辺の風景です。向こう岸の地面と、さらに遠景の富士山との間は、霞のように空間が大胆に省略されています。
水面に注目してみましょう。川幅の中に白から濃い青色までのグラデーションが凝縮され、水の流れの清らかさ、豊かさを感じさせます。よく見ると、水面に立った細かな波は、水の流れの白い部分にも、凹凸の空摺りであらわされています。
この作品をはじめ、「冨嶽三十六景」シリーズの最初の頃には、「ベロ」と呼ばれた青い顔料「ベルリン・ブルー」が多く使われています。この時代にヨーロッパから日本に入ってきたもので、北斎の新しいものへの関心の高さが見てとれます。