陶棺
とうかん
概要
陶棺(とうかん)とは、土でできた棺のことです。この陶棺は、比較的低温で焼き上げる赤褐色をした素焼きのもので、埴輪などの土成品と共通した作りです。家の形をしていて、蓋の部分は切妻型(きりつまがた)の屋根になっており、全体が12本の円柱型の脚で支えられています。大人が一人横たわれるくらいの大きさですので、形を崩さないように焼き上げるのは大変です。そこで、脚には空気を抜くための穴をあけ、蓋と棺をそれぞれ真ん中で二つに割り、パーツを分けることでうまく焼くための工夫をしたようです。
特徴的なのは、棺の一面に人物などが浮きぼりであらわされていることです。古墳の中で棺を置く部屋である、石室(せきしつ)に入った時にまず目に入る面を正面とし、印象的なデザインをそこにあらわしたのでしょう。山らしきかたちを背景に、中央に人物が立ち、左右の馬のような動物の手綱をとっています。実は、このように全身が正面を向いた人物を描くというのは、古墳時代の図像では珍しいことでした。それまでは、顔が正面を向いていても足のつま先は横を向いているなど、体の構造としてあり得ないものだったのです。このように人物が真正面を向くのは、6世紀中ごろに日本に伝来した仏教の図像に似ています。仏教の影響を受けているのであれば、この人物の、仏頭を思わせる盛り上がった頭の形や、前景にある蓮のつぼみのようなものも説明がつきます。ただし、正面を向いた人物が両脇の動物を手なづけるという図像は、仏教にはありません。このような図像はむしろ、古代オリエントに似た例が多いものです。当時の日本と古代オリエントの、シルクロードを通じた交流がベースとなったデザインとして見るのも、面白いかもしれません。