老君出関
ろうくんしゅっかん
概要
本作「老君出関」に描かれている牛にまたがった人物は道家の祖、老子である。周の役人であった老子は、国が衰微するのを憂いて身を隠すため函谷関(かんこくかん)という関を越えるが、その時、関所の役人の求めに応じて書物『老子』を遺し、その後仙人になったと伝えられている。
通例老子が手にしている道徳経はここでは見られない。大観はすでに明治34年の第10回絵画共進会で同様の「老君出関」を出品しており、そこで幽玄の気が宿るべく工夫された手法も、怪奇・幻妖とみなされ朦朧体として攻撃・非難が集中した。岡倉天心はこれを弁解するため、春風道人の筆名で13回にわたって読売新聞に批評を寄せている(岡倉天心全集3 平凡社 昭和54年 P146-168)。そこで天心は「奇想天外より落ち、毎回人を驚かすものは横山大観の作なり」と賞賛した。天心は伝統的な老子の扱い方を打ち破ることを大観に期待し、「予輩は拘々として古人の儀型に拠るの老子にあらざる大観の新老子を、他日の製作に見んことを希望して已まざるなり」と結んでいる。本作はその後10年をへて新たに制作された。