南溟の夜
概要
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南溟の夜 一幅
横山大観
紙本著色
八一・五×九〇・〇
昭和十九年(一九四四)
東京国立近代美術館
横山大観(一人六八〜一九五八) は、日本画改革運動を推進して、近代日本画壇に大きな影響力を持った画家である。東京美術学校第一期生として日本画を学び、卒業後同校助教授となるが、東京美術学校騒動の際岡倉天心に従い辞職。日本美術院創立に参加して意欲的に制作に励むが、大観らの試みた大胆な没線描法は朦朧体と酷評された。一九〇六年日本美術院の五浦移転に伴い同地に移り住んで研鑚を積む。一九一四年日本美術院を再興、以後その中心作家として活躍した。
本作品は戦争も最末期、南方から日本軍の悲報が次々に伝えられた頃に描かれた。南十字星が輝く夜空の下、黒く沈む南海の島が月明かりに浮かび上がる。美しい夜空に反して波は荒いうねりを見せ、不穏な時代を象徴する。南方戦線に散った人々への鎮魂の意が込められているのであろう。時代と共に生きた大観の心境を通して見た、美しく悲愴な風景である。