飛鳥山暮雪
あすかやまぼせつ
概要
雪景色の中、親子でしょうか、振袖姿の女性をふくむ二人連れが傘を手に後ろを振り返っています。
ここは今の東京都北区・王子にある飛鳥山。江戸時代、八代将軍徳川吉宗が桜の木を植え、一般の人びとに行楽の地として開放したことで、現代まで続く桜の名所となりました。女性の左に見える、飛鳥山の由来が記された石碑は今でも飛鳥山に立っています。背景には雪景色の田んぼも見えます。
人物の上には「あすかやま 狐の尾久の王子まて 花や見にこん 雪や見にこん」という、付近の地名が織り込まれた狂歌が記されています。
右上のタイトル「飛鳥山暮雪」は、景色がよく有名な場所を8か所選んで組み合わせた「瀟湘八景(しょうしょうはっけい)」という中国の画題のひとつ、冬山の雪景色「江天暮雪(こうてんぼせつ)」にならっています。この作品は、江戸の名所を瀟湘八景になぞらえて描いた八景物シリーズの1枚です。
作者は浮世絵師の葛飾北斎ですが、この作品は彼が勝川春朗(かつかわしゅんろう)と名乗っていた時期のものです。さらに描かれた女性の鬢(びん)を大きく張った髪型が流行した時期を考えると、北斎の20代の作品、ということがわかります。