紙本金地著色洛中洛外図〈/六曲屏風〉
しほんきんじちゃくしょくらくちゅうらくがいず〈/ろっきょくびょうぶ〉
概要
洛中洛外図は,京の洛中(らくちゅう)(市街)と洛外(らくがい)(郊外)を一望のもとに俯瞰(ふかん)的に表現し,多くは屏風形式で作成されたもので,室町時代後期より江戸時代中期にかけて盛んに制作された。社寺仏閣等の京の名所や公武の邸宅,商家の家並みの合間に,あらゆる階層の人々の生活や風俗を密画的手法で表現する。また,金雲によって画面を分節しながら空間構成しつつ,四季の移ろいを表す自然の景観や行事・祭礼を同時に表現する。
本作は,右隻(うせき)に方広寺(ほうこうじ)大仏殿(だいぶつでん)や祇園会(ぎおんえ)のにぎわいを,左隻(させき)に二条城(にじょうじょう)行幸(ぎょうこう)の還御(かんぎょ)の様子を描く。建物や町並みを詰め込まずに限定されたモチーフを配置し,人々の活動する様を比較的大きめに詳細に描く。穏やかで曲線的な人物描写は,近世初期風俗画として見どころがある。特に,祇園会の描写は優れており,山鉾(やまぼこ)の内の囃子(はやし)方や鉾(ほこ)を力強く曳(ひ)く町衆,音頭取り,山鉾を見上げる見物の人々等が丁寧に描かれている。また,右隻の五条河原には巴紋(ともえもん)の櫓幕(やぐらまく)をあげた歌舞伎小屋が,四条河原にも2つの歌舞伎小屋が描かれ,うち下り藤紋(くだりふじもん)の櫓幕を施された小屋には,「定(じょう)ふたい」と墨書が施されていることから,当時既に常設舞台小屋による歌舞伎興行が行われていたことがうかがえる。
また,清水寺の桜花や四条河原での水遊び,6月に開催される祇園会等,右隻には春夏の風景が描かれ,左隻には,紅葉や雪をいただく木々等,秋冬の風景が描かれている。
金雲は類型化したパターンとなっているが,右隻第1扇(せん)の金雲は別趣の形状で,大部分が金箔(きんぱく)地で覆われ,後に改変が施されたことが看取される。 また,画中には寺社名等の書き込みと貼り紙があるが,貼り紙は後に施されたものと考えられる。
本作は,寛永3年(1626)の後水尾天皇(ごみずのおてんのう)の二条城行幸が記憶にとどめられていた寛永期頃に制作されたと考えられる作品である。また,描かれた景観は元和(げんな)~寛永初期頃と考えられる。
洛中洛外図は,江戸時代に入ると屏風が小型化し,構図も固定化,四季的要素も薄くなってゆくが,本作は比較的制作時期が早めのものである。本作は,洛中洛外図の一定型として,また近世初期風俗画として学術的価値がある。
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