染付駱駝に阿蘭陀人文鉢
そめつけらくだにおらんだじんもんはち
概要
入れ子形式になっている大中小3点の染付鉢。いずれも鉢の側面に八つの枠を設け、オランダ人、駱駝、「寿」の字を添えた籠に挿樹文のデザインが2面ずつ、向かい合うように配置されています。鉢の形態は、胴部から口縁にかけて外反し、口縁には縦筋文が陰刻されています。内側をみると見込みには麒麟、縁には蝙蝠や瓔珞などの吉祥モチーフが添えられます。高台内内側に染付銘「乾」を確認できます。
文政4年(1821)、オランダ船の舶載品として雌雄2頭の駱駝が長崎にもたらされました。当時の様子を示す猿猴庵著『絵本駱駝具誌』(当館蔵、19世紀初め)によると、「首は鶴、背中ハ亀の甲に似て、千歳らくだ万歳らくだ」(読点は筆者による)と駱駝を長寿の象徴である鶴や亀になぞらえていたり、駱駝の体毛は疱瘡や麻疹などの病を避ける効果があるなどと紹介したりしています。「阿蘭陀人持渡駱駝KAMEEL蘭語カメール」(当館蔵)などの長崎版画では、雌雄2頭の駱駝は夫婦円満の象徴としてもみなされ、「牡牝むつましきものニて柔和なる」ものと紹介されています。当時の人々にとって駱駝は縁起の良い生き物として認識されていたことがうかがい知れます。同書には紙煙草を入れる「駱駝たばこ入」、瀬戸細工の「駱駝之水入」など、当時の調度品のデザインとして駱駝を採り入れていたことを示す記録が挿絵とともに確認できる。当館には、本作と同じデザインの色絵磁器を収蔵しており、当時の日本における「駱駝」ブームが伝わってきます。
【近世・近代の漆工・陶磁器・染織】