経筒(伝愛媛県北条市出土)
きょうづつ(でんえひめんけんほうじょうししゅつど)
概要
円筒形の陶製経筒の外容器で、底部には蓮華座を設けている。胎土は灰白色を呈し、焼成は堅緻で、蓋から身の上部にかけては浅緑色の自然釉が美しくかかっている。蓋は被せ蓋式の平蓋で、頂部は宝珠鈕をいただき、周囲には細い突帯をめぐらし、側面には耳状の紐を結ぶための鈕を、四方に付している。身はやや中部が膨み、口縁部には印籠(いんろう)蓋式の蓋受け部を作り、肩部にも結縛用の四耳を設けている。胴部には上中下の各部に、2重、3重、2重の箆描(へらがき)沈線をめぐらし、上部の正面には飛鳥文や花文を箆描きしている。蓮華座付の経筒や外筒は、銅製や石製品、中国製の青白磁経筒などに遺例がみられるが、陶製の外筒は極めて稀である。焼成地は愛知県の猿投(さなげ)窯で、12世紀初頭の焼成品とみられる。経塚遺物として貴重であるのみならず、日本の陶磁史上にも重要な位置を占めている。
奈良国立博物館の名宝─一世紀の軌跡. 奈良国立博物館, 1997, p.283, no.25.