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絹本著色日高河清姫図〈村上華岳筆/〉

けんぽんちゃくしょくひだかがわきよひめず

概要

絹本著色日高河清姫図〈村上華岳筆/〉

けんぽんちゃくしょくひだかがわきよひめず

絵画 / 大正 / 関東 / 東京都

村上華岳

東京都

大正/1919

1幅

東京国立近代美術館 東京都千代田区北の丸公園3-1

重文指定年月日:19990607
国宝指定年月日:
登録年月日:

独立行政法人国立美術館

国宝・重要文化財(美術品)

 村上華岳(一八八八-一九三九年)は京都市立美術工芸学校、京都市立絵画専門学校を経て、同研究科を大正二年(一九一三)に卒業した。明治四十一年から文展等に出品し受賞もしていたが、文展の審査に対する不信もあり、大正七年、国画創作協会結成に参加、土田麦僊と並んで同協会を代表する作家となった。
 華岳は前期においては、舞妓に代表される濃厚な情緒に満ちた作品を多く制作しているが、後期には病弱であったこともあって内省的で精神性を追求した作品が多く、総じて大画面の作品は少ない。国画創作協会第一回展出品の「聖者の死」は大震災で惜しくも焼失したが、第二回展の「日高河清姫図」(大正八年)と第三回展の「裸婦」(同九年)は、華岳が積極的に展覧会活動に参加した意欲作であり、華岳前期の代表作といえる。
 本図は小品ではあるが、道成寺縁起に取材し、清姫の情念を芸術的に昇華した作品として高く評価される。画面は日高川のほとりにいましも走り着いた清姫一人を描いている。編笠を被り、重ね着た小袖は両肩を脱ぎ、草履も失われている。清姫の絶望を示すかのように杖は下方に投げ捨てられ、両目は盲いたようで、右手は力なく宙を掴んでいる。乱れた黒髪と、日高川の岸辺に強く引かれた墨線はともに清姫の後身である蛇を連想させるが、特に岸辺の墨線は画面を引き締める造形上重要な役割を担ってもいる。後方の山の端に雨足が描かれ、華岳独自の色調、すなわち水墨を基調に具がちな黄土と緑青、さらにアルミ泥を用いた彩色によって、悲劇性はいちだんと高められている。
 華岳は翌年、「裸婦」において、作者の言を借りれば「肉であると同時に霊であるものの美しさ」をもった「久遠の女性」(村上華岳『画論』)を追求したが、本図において作者がめざしたのも、清姫という肉的な女性像を通して、そこに苦悩する人間としての精神性、さらにはその美しさを表そうとすることであったと推測される。清姫を浮世絵あるいは文楽人形に類した情緒性の強い姿に描きつつ、背景は朦朧とした古壁画のような独特の色調でまとめていることも、官能性あるいは情緒性と精神性を融合させようとする作者の意図によるものと推測される。劇的な一瞬をとらえた浪漫的な主題でありながら俗に堕ちず、気品に満ちた静謐な画面とした本図は、発表時からきわめて好評であった。
 大正期には人間的な感情を肯定するような、浪漫的・耽美的な気分が濃厚な作品が盛行したが、そのような時代風潮を反映しながら、本図の達成した芸術性・画格の高さは際だって優れており、華岳前期の代表作であると同時に、近代日本画中の名作として高く評価される。

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