文選巻第二(首欠)
もんぜんまきだいに
概要
『文選』(三十巻)は梁の昭明太子の撰で、周代より梁代に至る名文を集めたもので、わが国でも古くより尊重された。その伝本の多くは「五臣注」など注釈を加えたものであるが、本巻は本文のみの無注本の巻第二の鎌倉時代の古写本である。
体裁は巻子装で、本文は楮紙を継ぎ、淡墨界を施して一紙一八行、一行一三字に整然と書写している。惜しむらくは巻首の約十紙分を欠失しており、東京賦の途中より、南都賦、三都賦序、蜀都賦に至る巻末までを存し、末に「文選巻第二」と尾題がある。本文中には全巻にわたり稠密に墨書の注記、仮名、声点、返点、合符、朱のヲコト点(古紀伝点)、句切点、返点および注記、仮名などが書き込まれ、墨書注記は紙背に記すものもあり、その多くは本文と同一人の筆になるものである。巻末には尾題に次いで、寛治七年(一〇九三)四月五日菅原時登加点本奥書、式部少輔菅原在公抄出奥書、翰林主人(文章博士)菅原在輔読合奥書、散木光吉受説奥書があり、紙背には文章生菅原在行(在輔)受説奥書、寛喜二年(一二三〇)二月十八日筑前掾菅原在公受説奥書がある。これによって、本巻は菅原時登の加点本を祖本とし、菅原在公が寛喜二年に伝授された家の秘説によって書写、加点したものであることが判明し、在公の後、その子の在輔(在行)に伝えられたものであることが知られる。
文中に加えられた仮名には古体のものもあるが、これは寛治七年菅原時登加点の祖本の字体もそのまま受けついだものと認められる。また注記には六臣注と一致するものも多いが、「集注云」としてわが国伝来の『文選集注』からの引用もあって注目される。菅原時登、在公、在輔はいずれも文章博士を歴任し、菅原の長者となった人物で、本巻は菅原氏の家学の内容を伝えた古写本として、わが国文学史上に貴重である。
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