花瓶
かびん
概要
高さ 約20センチほどの花瓶の胴に、写真に見える「二代目の お蔦の襟や 冴えかへる」をはじめとして、5つの句が書き入れられている。花柳章太郎の自筆で書かれており、愛嬌のある独特の文字が印象的である。
お蔦とは、「湯島の境内」の場面で有名な「婦系図」(泉鏡花原作)の登場人物で、明治41年(1908)の初演以来、章太郎の師匠である喜多村緑郎が得意役としていた。昭和8年(1933)、章太郎は師の後を継いで初めてお蔦を演じる。喜多村の静かな、芯の強いお蔦とは異なり、章太郎のお蔦は気風の良い、冴えわたるような姿を見せたが、この句はその舞台姿を彷彿とさせる。
他に、「大雪や 女の傘の もち重み」「白糸の 名の涼しさに 吹きわけん」「風鈴や 雨となりたる 風の合え」「琴の音の それにも梅の 匂ひあり」などの句が書かれており、「滝の白糸」の白糸や「明治一代女」のお梅など、すべて章太郎が演じた役に関連して詠まれた句である。
昭和39年(1964) には代表作の「花柳十種」が選定されるなど、長きにわたり舞台で活躍した章太郎は数多くの持ち役があるが、この花瓶の句は戦前の当たり役が中心となっている。
花柳章太郎(1894~1965)の旧蔵品で平成10年(1998)に遺族の青山久仁子氏より国立劇場へ寄贈された。