虚無
概要
掲載の作品は、大正から昭和初期にかけて活躍した戸張孤雁の代表的な彫刻作品の一つ。
孤雁は、一八八二年東京に生まれ、二十歳の時に渡米し、最初は、絵画を学び、水彩や版画を数多く制作したが、次第に彫刻制作に力を入れるようになった。
孤雁は、萩原守衛の彫刻観に強い影響を受け、ロダンの作風を追っているが、孤雁の作品には、確かなモデリングによって達成された、密度の高い造形表現を見ることができる。
この「虚無」は、小品が多い孤雁の彫刻の中にあって、比較的大きな作品で、一九二〇年の第七回院展に出品された。
孤雁自身の言葉によれば表現されているのは、頑迷そのものの化身のような老人であり、ここで孤雁が追求したのは、自分自身の内に欠けている力強さ、重々しさであったというが、ごまかしのきかない正面向きの老人からは、孤雁の彫刻に対する姿勢もうかがえるようである。(毛利伊知郎)