紙本墨画寒山拾得図
しほんぼくがかんざんじっとくず
概要
本作品は,道釈人物画(どうしゃくじんぶつが)を多く遺す可翁(かおう)筆と伝えられる作品で,寒山(かんざん)と拾得(じっとく)を各幅に描く。
可翁(生没年不詳)は14世紀前期~中期頃に活躍したと推定される画人で,我が国の初期水墨画を代表する存在である。その実体は不明で,禅僧・可翁宗然(かおうそうねん)であるという説や,名の一部に「賀」を用いる詫磨派(たくまは)の絵師であるとの説などがある。
寒山・拾得は,中国の唐代に天台山国清寺に住んだ伝説の人物で,奇行に満ちた脱俗の人物として,禅宗の画僧(がそう)が好んで画題とした。
本作は,崖下に立ち,手に広げた巻物に視線を落とす寒山と,樹下で横向きに立ち,爪の伸びた手を胸前で合わせる拾得を,各幅に墨のみで描く。拾得の足下,図右下には箒(ほうき)が立て掛けられている。可翁筆とされる寒山拾得図は複数知られるが,本作の拾得図は,国宝指定本やフーリア美術館所蔵本の寒山図と近似する図様である。
寒山・拾得ともに敝衣蓬髪(へいいほうはつ)で,上衣の衣文線は濃墨で簡略に描かれ,腰蓑や樹木・崖は淡墨を用い,粗い筆致で描かれる。面貌は細線で描き,外暈(そとぐま)が施される。細い目元は怪異な印象を与える。また,「可翁」「仁賀」の朱文方印は,寒山図は図左下に,拾得図は図右下に捺(お)されている。
本作品は,我が国の初期水墨画の作例として貴重であるとともに,実体の明瞭でない可翁を考える上でも重要な資料である。