鰐淵寺境内
がくえんじけいだい
概要
出雲市北部,島根半島西部の北山(きたやま)山系の山中に位置する,中国地方を代表する山林寺院である。もともと鰐淵山(がくえんざん)といい,古代以来,浮浪(ふろう)滝(のたき)を中心とする山林修行の場として発展した。平安時代には蔵王(ざおう)信仰の拠点として栄え,『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』(平安時代末期)に「聖(ひじり)の住所(すみか)」として謡われる等,修験の場として知られていた。11世紀後半,天台宗延暦寺(えんりゃくじ)の勢力下に組み込まれ,12世紀後半に本格的な寺院浮浪山(ふろうさん)鰐淵寺として成立したと考えられる。中世には,境内に多数の僧坊を構えて繁栄し,14世紀にはそれまで北院・南院に分かれていた寺内が和合・統一し,根本堂が創建された。また,出雲(いずも)大社の祭事において鰐淵寺僧が大般若経転読(だいはんにゃきょうてんどく)を行う等,大社と強い結び付きを有するようになった。戦国時代以降,戦国大名の介入によって寺領は次第に侵食され,近世には大社祭礼への関わりも途絶して,寺勢は衰えたが,現在も中世以来の寺院景観を良く残し,江戸期の伽藍建築をはじめ,多数の寺宝を蔵する。発掘調査等の結果,中世期の繁栄を物語る遺構・遺物が良好に残存していることが判明した。中国地方における山林寺院の形成とその中世的展開,及び近世期の変容を理解する上で貴重である。