紙本墨画淡彩富嶽列松図〈与謝蕪村筆/〉
しほんぼくがたんさいふがくれっしょうず
概要
横長の画面の上半部に、淡墨による雪空を背に富士山を白く塗り残して浮かび上がらせ、下半部に高さを変えつつ横に連なる松林を描いた、簡潔な構成の図である。
池大雅と並ぶ文人画家与謝蕪村(一七一六~一七八三)は、晩年に至って「鳶鴉図」・「夜色楼台図」・「峨嵋露頂図」(いずれも重要文化財)といった独特の水墨画を生んだ。本図もそれらと同様に、墨面を広くとって暗い空を表しながら、墨と紙との美しい調和を見せる作品である。画風から見て、また極端に横長の画面を用いた構図が「夜色楼台図」に近いことからも、前期諸作と同じく蕪村が「謝寅」の号を用い始めた安永七年(一七七八)以降の作と推定される。なおこれらの中で本図のみに「謝寅」でなく「蕪村」と署名しているのは注意されるが、それはあるいは富士山という日本的な主題を意識してのことであったかとも思われる。
微妙に変化する墨調と大胆な筆致は、迫力と同時に俳趣ともいうべき軽妙さを感じさせ、蕪村の水墨画の傑作中に数え得る優品である。