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映画フィルム「楠公訣別」

えいがふぃるむ なんこうけつべつ

概要

映画フィルム「楠公訣別」

えいがふぃるむ なんこうけつべつ

その他 / 大正 / 関東 / 神奈川県

神奈川県

大正/1920~1928

1巻

神奈川県相模原市高根3-1-4

重文指定年月日:20100629
国宝指定年月日:
登録年月日:

独立行政法人国立美術館

国宝・重要文化財(美術品)

 大正10年(1921)11月20日から12月10日まで、映画に関する国内最初の展覧会「活動写真展覧会」が文部省主催により東京博物館(現国立科学博物館)を会場に開催され、当時の映画の人気を背景に総入場者が13万人を超える成功を収めた。
会期末の12月8日には、当時の摂政宮(後の昭和天皇)の行啓があり、館内展示物の観覧後、屋外でミニチュアセットによる特殊撮影を見学し、次いで尾上松之助(明治8年(1875)~大正15年(1926))一派の楠公訣別の実演とその映画撮影の状況を観覧した。
この実演と撮影の状況を観覧する摂政宮の映像が「史劇楠公訣別」と題された映画フィルムである。このフィルムは35ミリ可燃性ネガフィルムであり、現存するごく早い時期のオリジナルネガフィルムである可能性が極めて高く貴重なフィルムである。
 フィルムの全体は、五つの部分で構成される。(一)「史劇/楠公訣別/故尾上松之助氏主演」と記された標題部、(二)撮影日「大正十年十二月八日」を含むフィルムの説明を記した説明部、(三)樹木の映像からなるごく短い導入部、(四)摂政宮が実演会場に到着したところから尾上松之助一派の演技場面およびこれを観覧する摂政宮と関係者などの映像からなる主体部、(五)「終」の文字がフェードアウトする末尾部である。
使用されたフィルムは、フィルム・エッジの製造社名、イヤーマークから、四種に分別される。(一)標題部、説明部、末尾部は製造年不詳のアグファ社製、(二)導入部は1928年イーストマン・コダック社製、主体部は(三)1920年イーストマン・コダック社製および(四)1921年イーストマン・コダック社製である。
主体部のフィルムの継ぎ目はいずれも撮影ショットごとに継がれており、カメラネガ(カメラに装填されて撮影されたフィルム)である可能性を強く示唆している。また、このフィルムの画像がシャープさや豊かなコントラストなどの点で極めて良質の画質であることも、デュープが繰り返されていないことを示している。
 一方、「故尾上松之助主演」とある標題部および「故人尾上松之助一派」とある説明部は、フィルムの製造年は不詳であるが、松之助の没した大正15年(1926)9月11日以降に製作されている。また導入部は、1928年製造のフィルムが用いられていることから、同年以降の製作である。さらに説明部に「日活会社秘蔵ノ教育写真」とあり、この製作が日活においてなされたこと、この時点で主体部はすでに日活の所有であったことを伝えている。
 以上のことから、現状のフィルム「史劇楠公訣別」は、主体部に大正10年12月8日に撮影されたカメラネガ(カメラに装填されて撮影されたフィルム)を用い、昭和3年(1928)以降に標題部、説明部、末尾部を加えて編集されたネガフィルム、すなわちオリジナルネガフィルムである可能性が極めて高い。
またこのフィルムには、撮影時のカメラ配置が映像に残されている点などに当時の映画製作の具体的状況が窺え、映画製作技術史の上で重要であるとともに、映画をテーマとする我が国最初の展覧会に関わる記録映像として、また日本最初の映画スター尾上松之助がその生涯最高の栄誉に浴した場面を記録した映像として、映画文化史の上からも貴重な資料である。
以上のように、 現在では希少となった可燃性フィルムに記録されている点で価値が高いことに加え、現存するごく早い時期のオリジナルネガフィルムである可能性が極めて高く、日本の映画製作技術史および映画文化史の上から価値が高いものである。

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