絹本著色普賢延命像
けんぽんちゃくしょくふげんえんめいぞう
概要
普賢延命菩薩は、普賢延命法の本尊として請召される。延命法は人の寿命にかかわる修法だけに切実なこととして平安時代の貴紳の間で盛んに行なわれ、造像も相当数にのぼり遺例も多い。
本図は昭和四十二年六月に重要文化財に指定され、その損傷状況を考慮し、ただちに修理が実施され面目を一新した。もとより長年にわたる薫煙によって銀箔、群青、緑青が変色し、たとえば紺丹、緑紫と称される当代固有の暈繝【うんげん】の組み合わせによる当初の微妙な色調が失われている点はいなめないが、補彩などの後手もなく作柄のきわめて優秀なることを改めて確認することができた。加わうるに、修理に際し画絹裏の最下辺に「延命像〈 仁平三年四月廿一日供養/〉」の墨書が発見され、平安時代仏画の数少ない在銘像としてまた当代の基準作としてその価値を一層高からしむることとなった。
普賢延命菩薩の尊顔や二十臂をかたどる撓みのない朱線、肉身や条帛に賦された強い暈取り、地金を用いぬ大様な彩色文様などからは、藤原仏画に広く認められる巧緻繊麗な美しさとは別趣の画致が感じられる。
なお、本号の表紙は四大白象の頭頂に立つ四天王のうち広目天と多聞天であるが、その着衣にはほりぬりの技法を用い十分に墨線を生かした力強い動勢表現が見られ、鎌倉時代に指向する新しい兆しを看取することができる。
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