綴葉装。料紙は無界楮紙を用い、半葉九行に書写する。本文は「かすかのゝわかむらさきの」の歌の段以下一二三段を収め、帖末に皇太后宮越後本によって一二段、小式部内侍自筆本より二四段を追記している。本文中に朱雀院塗籠本などの諸伝本、或は万葉・古今集などの諸書との校異多く、勘物の記載が著しい。本奥書によれば本書は顕昭阿闍梨并皇太后宮越後本を書写したと伝え、顕昭校合本系に属するいわゆる広本である。本文は定家の流布本に比して異同多く伊勢物語研究上特に注目されている。帖末の烏丸光広の識語に筆者を藤原為氏と鑑していて本書を伝為氏本と呼ぶ因となっているが、その書写年代は相応と認められる。